東京高等裁判所 昭和49年(う)945号 判決
被告人 条隆
〔抄 録〕
右の事実関係によって考えると、牧野、宇都宮の両名は、山浦、山口の両名に対し、真実は同人らのため手形割引をしてやる意思もその見込みもなく、入手した手形を自分達の金策のため適宜処分するつもりであるのに、これを秘し、種々嘘言を用い、同人らをして真に手形割引をうけられるものと誤信させ、同人らから割引受託の名目で手形一二通を騙取したものであって、右犯行が牧野、宇都宮両名の共謀による共同犯行であることは明らかである。しかし、被告人条も右の共謀に加わった一員であるとみることについては多くの疑問があるといわなければならない。条が右手形騙取の実行行為そのものを担当していないことは、前記の事実関係から明らかであり、同被告人が関与したのは、牧野から「小口の手形を持って行くから五〇〇万円の手形は返してくれ」との電話連絡をうけこれを承諾したことだけである。条は、右の承諾をした際、先に五〇〇万円の手形を取得した際の経緯からして、牧野が山浦倉太あるいはその他の者に対し代議士秘書であるとかその他適当な嘘言を用い何らかの方法で小口の手形を取得するのであろうことは認識した筈であると認められるが、手形取得の相手方や方法などについてそれ以上に具体的なことは何も知らなかったのである。牧野に対し、小口の手形を取得することを命じたり勧めたりしたわけでもなければ、その取得について具体的な協力を約束したわけでもない。また、牧野においても、先の五〇〇万円の手形の場合とは異なり、小口の手形を山浦らから取得するのは自分自身なのであるから、その取得自体について条に助力を求めたわけではなく、ただその前提となる五〇〇万円の手形返還を求めただけにすぎない。条と牧野の間においては、山浦らから小口の手形を取得するについて共通の動機とか立場があったわけでもない。以上のように考えれば、前記の電話連絡と承諾によって牧野と条との間に本件一二通の約束手形騙取につき共同意思が成立したとみることは困難である。とすれば、右の電話連絡と承諾とによって共謀が成立したものと認定した原判決(罪となるべき事実に至る経緯の第二)は、事実の認定を誤ったものといわなければならない(なお、原判決は、右の電話連絡が一一月二六日ごろなされたものと認定しているが、被告人条について取調べがなされた全証拠によっても、右の電話連絡が二六日ごろ、すなわち一二通の手形騙取の前日ごろなされたことを十分に認めることはできない。そして、電話連絡のなされたのが牧野らの犯行の前日であっても、当日であっても、その電話の内容が前記の程度のものである以上、共謀の成立を否定すべきであることに変りはない。)。右事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであり、原判決はその判示第一ないし第三の各罪を併合罪として処理し、一個の刑を言渡しているのであるから、原判決は全部破棄を免れないというべきである。
(上野 綿引 千葉)